コーヒームテ

【Cross Talk /焼菓子モモ・コーヒー ムテ】滲み出る世界観を技に織り込む

by 紀平 真理子

in

愛知に点々と現れるマルシェやイベントという祭の舞台。

そこに佇むコーヒー ムテの小さなボックスの影。店主の顔が隠れる小さなボックスからは、深煎りコーヒーとうまいドーナツが差し出される。

米粉のやさしさを纏いながら、意外な鋭さを秘めた焼菓子モモ。マルシェ、通販、教室と、その姿形を変え、拡張しながらも、「らしさ」はそのまま歩みを進める。

農家と彼らが交差する場所、マルシェ。 作ることと売ること、その境界線上で揺れる二人の姿。

始まりは小さくとも、変化は大きく。 おいしさを追い求め、現実の壁にぶつかりながら、 それでも…。影響を受けた音楽が背中を押し、 観た映画、読んだ本が新たな視点を与える。雑談の中にこそ、味が隠れ、確実に何かが染み出していく。

雑談場所:cafe ayim(愛知県春日井市)

テンションを上げるために、つまらないときにもスタイルを変えますね。”(モモ)

焼き菓子モモ
焼菓子モモ

―いつ頃から始められたのでしょうか。

ムテ 僕は2019年から細々と始めていました。正確には8月なんですけれど、「デビュー戦は大阪で9月に開催された全感覚祭という音楽イベントです」と言い切っています。

モモ 私も2019年の11月です。2020年に、旧那古野小学校で開催された伝説的なマルシェでムテさんと初めてお会いしました。お互い始めたてほやほやだったんですね。

―その頃とスタイルややり方は変わっていますか。

モモ 私も違うけれど、ムテさんは全然違うと思います。印象も顔も違う。メガネをかけていましたよね。

ムテ かけていました。当時、僕はホテルの宴会課で働いていて、制約もあって髭も生やせなかったんです。宴会課は、席に置いてある名前が見えないと仕事にならないので、メガネはかけていなくちゃいけなかったんです。

モモさんに初めてお会いした時は襟付きシャツでした。マッシュ(ルームカット)で、メガネ、薄い顔で、白シャツを着て音楽好きで、本が好きで、コーヒー屋ってどこにでもいるわ!って思って、コンプレックスがずっとあったんです。でも、わかりやすくタトゥーっていうのもまた違うのかなって。

モモ 極端!

ムテ 2021年にムテボックスの重機を作っていただいて、その稼働を始めるタイミングで丸坊主にしました。男の人は見た目の制約がありますよ。あまりに華美だと怖がられちゃうし。赤い髪とか緑とか青、おしゃれの範疇じゃなくなるのも男かも。

―モモは私の高校の同級生でもあるのですが、その頃からよくスタイルが変わっていました。今では考えられないけれど、クレージュのカバンのイメージ。

モモ 持ってた持ってた。よく覚えてるね。私、昔からスタイルをよく変えています。

ムテ 2000年代の初頭ですか。

モモ そう、まゆげも細かったです。ギャルっぽさも好きだったけれど、雑誌だとZipperとかCUTiE(ともに裏原系女性誌)が好きだった。今もそういう癖があるけれど、コロコロ変わりますね。飽きちゃうというか。

ムテ 変えるのは験担ぎですか。

モモ 考えたことなかったけれど、験担ぎかも。テンションを上げるために、つまらないときにもスタイルを変えますね。

―ムテさんはもともとメンズエッグの読者なんですよね。

ムテ そうです。2004頃に高校1年生だったので、年齢はお二人の少し下ですね。あの頃のメンズエッグは模索していて、色々な服装が載っていたんですよ。その後、ギャル男一色になったこともあり離れました。

間抜けな響きで口に出したくなる屋号を看板に据える、これがお客さんへの最初のプレゼントっぽいなと思いました。”(ムテ)

cafe aiym

―「焼菓子モモ」と「コーヒー ムテ」、屋号が独特で素敵ですが、どのように決めたのでしょうか。

モモ ミヒャエル・エンデの『モモ』が好きだからです。候補も他になかったし、あまり珍しいものにしようとも思っていなかったです。「モモ」だけだとありふれているから、「焼菓子」をつけて、見た目のバランスとかわかりやすさとかで決めました。

ムテ 由来は、いがらしみきおの『ぼのぼの』という漫画の38巻に載っている「ほっぺたと後頭部の間の部位のムテ」です。意味のない単語にしたいと思っていました。その頃、音義説というか、口に出したい単語にはまっていて。バンドなど歌詞には出てこないけれど、かっこいいタイトルがついていたりするじゃないですか。口に出して好ましい感情。ビートルズの曲名『sargent pepper’s lonely hearts club band』って名前を覚えられたらうれしい感じ。これ男っぽいですよね。

モモ 男っぽい。私はそれがまったくないので、うらやましかったりもします。ある音楽を聴いて掘り下げるのも男性的だと思います。

ムテ 後付けの習慣ですよ。みんながやってるからやらなきゃって。大学生のときバンドサークルだったんですけれど、Nirvanaのアルバムを一枚聞いて入っちゃったので、周囲からすごい詰められました。

モモ そういうのありますよね。

ムテ 男ってこうやって掘っていく生き物なんだと後付けで学習した感じです。普段は何にも掘り下げたくない。

モモ そのあたりにメンズエッグの感じが出ていますよね(笑)。

ムテ 浅瀬を漂ってる感じ。話を戻すと、間抜けな響きで口に出したくなる屋号を看板に据える、これがお客さんへの最初のプレゼントっぽいなと思いました。最終的には、信頼できる友人にいくつかの候補を伝えて、2名が「ムテ」って言ってくれたので決めました。

モモ そこは委ねるんですね。意外かも。私、絶対に委ねないから。ただ、この委ねる感じがムテさんの中での「意味を持たせなくない」に繋がる感じがします。

ムテ 僕は学生時代にベースを弾いていました。ベースは相対的に仕事が少ないので、バンドマスターでとして仕切ることが多かったんです。その中でずっとエゴイスティックな側面を隠さず演奏していました。ただ、一度、実力的に上の友人たちとデヴィッドボウイやったことがあって。個性的なメンバーだったので「僕がまとめなきゃ」って、みんなの顔色を見ながら進めました。すごく負荷もかかったのですが、演奏後に先輩に「すごくよかった」って褒められて。この経験から、自分が楽しいときは実は他の人はあまり楽しんでくれていないのかも、自分は何かの制約下にいる方が活きるのかもという意識を持ち、それがずっとありますね。

それと同時に、徳島県でコーヒーの修行をしたんですけれど、そこで「オーナーシェフが一番悲惨だぞ、意見を求める先がない」と言われていました。例えば、味付けがちょっと濃いとか、おいしくないっていう意見を受ける構造にないので、潰れるときは一直線になりますよね。そんなことを言われていたので、ギリギリのところで誰かに委ねることは、なるべくするようにしています。

モモ なぜ徳島だったんですか。

ムテ 当時Twitterをやっているコーヒー屋の中から、東京、京都、徳島のお店に行ってみました。おいしくて、でもそれだけじゃない店がそこだったんですよ。「働かせてください」って飛び込んで、「今は人数がいるので、来年またきてね」って言われて。

モモ すごい。師匠がいるのも羨ましいです。私もいますが、がっつり修行という感じではなかったですね。

ムテ 一長一短ありますけどね。モモさんの委ねない感じ。人を信用していないのですか。

モモ 信用はしてるんですよ。人好きです。ただ、自分のセンスに自信があるんだと思います(笑)。

絶対にこれは使いたくないではなく、おいしいものを作りたい。”(モモ)

―作るものに関しても、材料も含めてこだわっているだろうと思いますが、でも過度にアピールしていないですね。それはなぜでしょうか。

ムテ 個人的な見解ですが、食に関しては、白砂糖は漂白しているといまだに信じている方もいるので、アピールすることで変な期待を持たせてファンがついてしまう可能性があります。「きび砂糖なんだね」、「米油なんだね」とか。なので、過度な期待や勘違いをさせてしまうことは避けたいと思っています。それはモノ消費というか。そもそもモノ消費はマッチョイズムっぽくて好きじゃないんです。バリスタ世界一位とか、グラビアアイドルだとJカップとか。

モモ 例えのバラエティが笑える。

ムテ パーツで概念を切り取って分けるのは男性っぽいと思います。最近は、女性側からも、男性的な概念を切り取って分けた評価が同様に出てくるようになりましたよね。

あとは、まだぼんやりと「喫茶店のマスターとかいいけれど、どうやって勉強すればいいかわからないな」と思っていた時に、あるコーヒー屋に入って洗礼を受けまして。その経験から、初めての人にもある程度楽しんでもらえたほうがいいと思うようになりました。だから、動物性だろうがなんだろうが、おいしいだけを正義にやっている感じですかね。

モモ 一緒かもしれないですね。以前はヴィーガンと謳ってはいましたが、それはたまたま私がそのとき作れるのが卵乳不使用のものだったというだけです。初期の知られていない時は、縛りをつけたほうが印象に残るというのもありました。当時、グルテンフリーでヴィーガンで、かつ個性的というかエッジが効いたり攻めてたりという印象のお店が無かったので。

ムテ ヴィーガンと言わなくなったのはなぜですか。

モモ おいしければいいと思っているからです。絶対にこれは使いたくないではなく、おいしいものを作りたい。それはヴィーガンに限定されなくて、今の縛りは結果的にグルテンフリーってだけですかね。

ムテ 米粉はなぜですか。

モモ もともと趣味でお菓子を作るのが好きでした。小麦も使ってたけれど、試食もいっぱいするのですが、なんか合わなくて。妊娠したり、子どもが産まれたりするタイミングで、米粉にしようかなと習いにいきました。なので、できることが米粉ってだけですね。

―お二人ともマーケティング視点でお客さんのターゲティングをしている感じではない気がしています。

ムテ マーケティング的に理想のペルソナっていうのかな?あえてそのお客さんをあげるとすれば、20代の時に「コーヒー屋になってみようかな」って思いながら、一旦コーヒー屋やその界隈から離れた学生時代の自分ですね。

モモ 私も大きくは見ていなくて、一人。求めてくれた、好きでいてくれているお客さんのために作るかな。

ムテ そんなイメージでやりながらも、実際に営業が始まると、お客さんのムードは固まってきますね。ほとんどが女性客ですし、一人で来て、懺悔室のような感覚でムテボックスでちょっとしゃべって…。

モモ そんなことが行われているんですね(笑)。

―ムテボックスはムテさんのお顔見えないから話しやすいんだと思います。それにしてもお二人ともお客さんを覚えているんですか!すごいですね。

ムテ 徳島で鍛えられましたね。22、3万人しか住んでいなくて、小さく閉鎖的コミュニティがいくつかあるので、一見さんを逃すと次はないんですよ。どれだけモノがよくてもあぐらをかいていたらあっという間に見捨てられます。だから、お客さんを覚えるために、ノートに書いて、いろいろな覚え方していましたね。

モモ 私もいつ買ってくれた、いつ教室来てくれたなどをメモっています。

最近、平面的な技術と立体的な技術について考えるようになりました。”(ムテ)

コーヒームテ
コーヒー ムテ

―お二人のお店や商品を、曲とか文学とか何かにあえて例えるならどんなものでしょうか。

ムテ モモさんは電気は通していない音楽というイメージ。

モモ そうそう!そんな音楽ばかり聴いています。私は古い音楽が好きです。女性ボーカルも好きで。60年代のガールズポップから始まり、女性コーラスグループ、ジャズ。映画も女優で観ることもあります。日本だと蒼井優が好きだし、フランスのアンナ・カリーナも。『女は女である』(ジャン=リュック・ゴダール監督)っていう映画が好きで、服装も真似していました。加賀まりこも好きで、『月曜日のユカ』(中平康監督)って映画もかわいいですよ。あとは、チェコの『ひなぎく』(ヴェラ・ヒティロヴァ監督)の影響も受けています。モモの世界観としては、チェコのヤン・シュヴァンクマイエルっていう実写のアニメーターの影響も受けていますね。メルヘン、ファンタジー、ガーリーなもの好きなんだけれど、私の好きな映画や作品は破滅に向かう系ですね。

ムテ なるほど!自分は図形ですかね。恩地孝四郎(1881-1955)という装丁家がいまして、フォント普及していない時代に丸と四角の…。

モモ そういうイメージある!

ムテ 戦前のアカデミックなものがただアカデミックで、プロパガンダではなかったムードが好きなんです。

モモ 私は、左右対称のパターンっぽい装飾とか紋様が好きです。そういうものを意識しています。昔の本の装飾や挿絵が好き。ただ、それを直接的に使うんじゃなくイメージとして持っていて、頭の片隅にあるから総合的に見るとそういうニュアンスが出る感じです。

ムテ コーヒーのブレンドを作るときには、イコライザー(音響機器において音質を調整するための装置)のつまみを頭の中でイメージして、なるべく抜けるような感じじゃなくて、山なりで角がなく、篭っている感じに作ろうとしていますね。味というか風味ですかね。ブラジルの豆ならどしっとタイプなので、これくらいの量入れて…みたいにやっています。

これって農業の参考になるのでしょうか。

―農業も作って売る過程で、同じような話になりますよ。機能的に数値化したり、技術をアピールする売り方もあります。一方、技術より世界観売ろうとすると、それに縛られて制約になっていくこともあります。

モモ バランスの取り方ですよね。お菓子教室の謳い文句で「私でもできたからできる」というのを見かけますが、私は「私だからできた」と言っています(笑)。変に期待させないのと、これを言うとウケるので(笑)。

ムテ 僕は、あまり自信がないですね。技術がうまくコーヒーに応用できてない。

モモ そんなことはない。

―技術もあるけれど、この味を作りたいと組み合わせるのはセンスなのですかね。

モモ それを他の人に聞くわけにいかないので、ムテさんが自分でおいしいと思うものに行くしかないですね。

ムテ 最近、平面的な技術と立体的な技術について考えるようになりました。趣味で曲を作るときに、弾き語りでやろうとすると懲りたくなる。ジャズっぽいアプローチで細かくコード変えていく。でも、プロの弾き語りでは、コード進行自体は単純で、簡単なものを繰り返して歌って聴かせる。最初は「なんだ全然凝ってないじゃん」って思っていたんです。元々、オーケストラの二番手のバイオリンが代わっても一緒じゃないかとか、バンドに別のベース入ってきても楽譜あるから別に誰が入ろうが一緒じゃないのって思ってたんですよ。人が違う誰かに取って代わるってことは、サウンドはもとよりチーム感、人間としてのふるまい等にいろいろな変化をもたらす因子となるはずなのに、そこがあんまり認識できていなかったんじゃないかな。

モモ うんうん。

ムテ 僕が作っている曲って、コードは凝っているかもしれないけれど、譜面にメロディーとコードを起こしてしまえば誰でも再現ができる程度のものなんです。それを平面的なものとするならば、プロのミュージシャンはとにかくコードも簡単でいい、ストロークもそんなに変えないけれど、歌に注力することでダイナミクスというか、盛り上がりの部分でいつも違いがある。

モモ なるほど、それが立体か。

ムテ そうです、異なるアプローチでメロディーにしてみたり、ストロークを少し強くしたり。一本音を鳴らす弦を増やすとか、その場その場でばっと盛り上がりをつける、それを立体。

モモ テクニックというか、コクというか。

ムテ 再現可能性の低さを、その人によって可能性を上げる。それを技術とするならば、僕のは硬直的かな。ドーナツも再現可能性高くて平面的なものと、レシピは簡単なんだけど揚げるのにかなりの技術を要する「とてもうまいドーナツ」の2種類にしました。

「機械的存在じゃなくて自分は人間だよ」という意味でも技術は持っていないと、機械に置き換わってしまう。

モモ ムテさんの中でその二通り、分け方というのがおもしろい。はたからみたらそんなこと全く思わないのもおもしろいですね。

地獄は無味無臭で居心地のいい場所だと思っていて、とにかく怖いんです。”(ムテ)

モモ 「あ、私のおいしいんだ!」ってときもありませんか。自分では自信がないときもあって、だけどそれが絶賛されて、「あ、これ結構いけてるんだ」って。自分ではわからないことをお客さんに気付かされるときもあります。

―自信がないときほどテクニックに走りたくならないですか。シンプルにいく怖さというか。

ムテ シンプルにいく怖さに技術が隠れている可能性を感じています。コーヒーも立ち上げからレシピを変えていないので、再現可能性の低さを自分の手で保証するとどういう表現になるのかを考えたいと思っています。

モモ 向上心があってすごい。

ムテ 地獄は無味無臭で居心地のいい場所だと思っていて、とにかく怖いんです。

モモ 私もそこにいないようには自然にしている。

―そもそも居心地のいい場所って存在しているのでしょうか。

ムテ 居心地のいい場所って、言い換えるとお互いが何もしていないことを確認し合う場所。負の隣組みたいな。

モモ 現代的な居心地のいい状態は、思考回路停止している状態と関連しているかな。そうならないように気をつけてもいるし、それが自然でもあります。私は変えない方が怖い。同じことやっているのが好きじゃないし、できないです。

ムテ テニスコーツが50歳くらいの時に出したアルバムの中に、「落ち着くところは結局なかった。でも歩くスピードもだんだんゆっくりに」っていう歌詞があって。居場所なんて見つからないし、だんだん遠くにいけなくなっていくだけなんだって。

野菜は歴史がすごいなと思うし、そもそも出荷までが長いじゃないですか。それを考えると、私のやっていることは即興って感じがします。”(モモ)

cafe ayim

―では、そこから関係して野菜…。

モモ 関係してないわ(笑)。

―(笑)では、野菜、お菓子、コーヒーをカルチャーに落とし込むとどんな印象でしょうか。

モモ 古いものが好きだから、古代野菜に憧れはあります。品種改良されていない昔からあるものが昔の音楽に合うかなと思います。

ムテ 野菜は火を通さないものをそのまま楽しむならアコースティックよりかなと思っていたんですが…今ふと思い出したんですが、病原菌ってずっといるじゃないですか。ジャレド・ダイアモンドが書いた『銃・病原菌・鉄』で、とうもろこしは可食部分がほぼなかったみたいな。「それを食べられるって見越して育てたやつがよくいたな!」と思うと、野菜も加工、加工の歴史だなと思います。

―ジャガイモの話をしてもいいですか。ペルーの在来種はソラニンが多くて、その毒抜きと保存のために凍結と乾燥を繰り返してチューニョに加工して食べます。

ムテ 毒があるのに途中で諦めないというのは、飢餓の経験がないからわからないのかも。漬物とかもそうですが、生きるか死ぬかにいなかったから、見えてこない縁遠いものに感じます。飢饉飯の土がゆとか壮絶じゃないですか。

―ジャガイモも飢饉で広がる歴史があります。

ムテ そう考えると、逆に野菜って科学の一番最先端にいるのかな。

モモ 野菜は歴史がすごいなと思うし、そもそも出荷までがめちゃ長いじゃないですか。それを考えると、私のやっていることは即興って感じがします。

ムテ 最終工程でいっちょかみしているだけだと思いますね。大したことは何もやっていないという考え方で来ている。顔を覚えようはその裏返しです。技術的な勉強はどこまでいっても自信がない。

モモ 私もそれはちょっとあります。

ムテ 技術というか責任、絶やさない。見初めて商品を買ってくれたのに、次に買おうと思ったらもうやっていないということにはしたくない。名古屋は、大きいものはいいものだという価値観もあると思っているのですが、あながち間違いでもない。その規模に自分がいきたいかは疑問ですが、気に入って買ってくれる人がいる限りは続けなきゃという責任はあります。勝手に始めておいて、お客さんがいるからという責任にすりかえる(笑)。

モモ それもちょっとわかる気がする。

「あっ!そういう使い方するんだ」、「私のお菓子をそんな使い方したいんだ」ってことはめちゃあります。それでここまでやってきたとも言えます。(モモ)

―ムテさんは今、お店も作っているんですよね。

ムテ 色々あったんですけれど、ムテボックスを作ってくれた方が、0から手を貸してくださることになったんです。とんでもなくおもしろいところになりそうです。その方の提案は、凝り固まった焙煎所やカフェのイメージとかけ離れているんで。これもまた他人に一旦委ねる、ですね。中の人気質なんですよ。与えられた中でどう動くか。

モモ ムテさんはSNSちゃんとやっているから、中の人とは思っていません。自分の言葉で発信したい人ですよね。実は、ムテさんの投稿を見るためだけにthreadsを登録しているんです。

ムテ 誰が読んでも一発で意味がわかり、批判的なものをなくすこと、基本姿勢は対面で話すのではなく、同じものを見ている横にいる人に「あれいいよね」っていう状態を維持することを心がけています。

モモ だから私はめっちゃ好きなんだと思います。恩着せがましくないし、正面で話すんじゃなくて、並びで顔見ずに話す感じ。洒落臭くないところがいい。

ムテ 投稿するために半日くらい考えます。表現するって、決意表明ばっかりで中身何もないのではない。BLANKEY JET CITYなど世界があっておもしろい、表現するってこういうことだよなと思います。

モモ あのクオリティなら、半日かけるのも当たり前だと思う。人柄と経験。だから中の人じゃなく表現者だと思いますよ。ただ、箱(ムテボックス)の中の人ではある(笑)。バランスが絶妙なんですよね。

―SNSの発信内容はコーヒー屋とリンクさせているのですか、あえてさせていないのですか。

ムテ していないですね。美術館で作品のタイトルを見た後にまた作品を観ると、タイトルを含めて膨らませて受容できるというか。コーヒー屋でコーヒーの写真を載せるのは単純。好きな人がいるから好きって伝えるみたいな。なるべく関係ないんだけれど、想像を膨らませることでリンクするかもしれないものをコーヒーの横に置くことが多いですね。ショップカードもじいちゃんばあちゃんですし。

モモ ショップカードを見て「変な人!」と思った。

ムテ もともとは、友人に「帰省したときに家族で飲んだよ」って言われて、洒落たカフェで飲む、丁寧な時間というだけでなく、別もありだよなって。

モモ 「あっ!そういう使い方するんだ」、「私のお菓子をそんな感じで使い方したいんだ」ってことはめちゃあります。それでここまでやってきたとも言えます。求められることをしたいです。それをやることで広がって、変わってきています。

ムテ こっちから「こう飲んでください」って決めるのは…。

モモ 「私はこのやり方しかしません」って言わないように気をつけています。

ムテ コーヒーは抽出の仕方や飲み方を指定がされることもあるのですが、それって「ソニーのこのCDデッキで聴いて」と指定してくるようなものですよね。CDの製作陣はそんなこと言わないよなって。量販店のコーヒーで十分満足している人がいる界隈ですし、そういう人にこそ買ってもらえるようになりたい。だからこそハードルに感じるものは取っぱらいたい。

モモ それが壁になるものなら取っぱらえばいいと思っています。私がヴィーガンと言わなくなったのもそうです。ただ、ヴィーガンを見込んで頼まれたら作ります。でも、子ども向けだとは思われたくないので、スパイスを使っているし、大人のために作っていますよというのは選んでいます。

キュウリなんかウリハムシを呼ぶだけの装置になりました。ナスを育てたら奇妙なナスができたりして、嫌悪感との戦いでした。”(ムテ)

焼き菓子モモ

―初めにコンセプトを考え抜いて始めても変わりますね。

モモ そうそうそう。

―変えられる贅沢とも言えますね。

ムテ そうですね。ただ、ユニクロだって昔は野菜を売っていましたよね。今じゃグローバル企業。野菜に関しては転換が難しいんですか。

―条件が整えば変えられることもあります。ただ、牛を買いたいとか、木を植えたいとか時間がかかりますし、ハウスや機械が必要だったり。土地にも縛られるので、できるできないはあると思います。

モモ 農業は圧倒的に時間がかかりますね。とにかく私は時間がかかることはできない。すぐに結果がほしい。自分に考えられないので尊敬しかない。すごいなとしか。未知の世界。

ムテ 農業は去年と今年とを比べたときに、どの変数が影響しているのかがわからない。コロナ禍に、祖母の畑を借りて畑の真似事したんですが、あまりにも難しくて。トマトやバジルとかはいけたんですけれど、キュウリなんかウリハムシを呼ぶだけの装置になりました。ナスを育てたら奇妙なナスができたりして、嫌悪感との戦いでした。

モモ ムテさんが畑をやるとそうなるんですね(笑)。

ムテ 料理に活かしきれない自分への苛立ちもあります。

モモ 期待しちゃってるからじゃないですか。期待値高め。

ムテ 完璧主義でちゃんとやりたいからこそ、ミス前提で、期待しないようにしているんですけれどね。

モモ 私も完璧主義だから抑えることができない。周りにも自分にも。ただ、精神力だけでやっちゃうから体調崩したときにがくんときちゃう。それも悪いとは思ってないけれど、体力はつけないといけないと思っています(笑)。

ムテ お店の工事の関係で筋トレを始めました。スクワットと腕立てだけですけれど。筋力、筋量、筋持久力をつけるトレーニングは違うんですよ。これまで、筋量をつける見た目のためのトレーニングしかしていなかったけれど、筋力つけるようになって、立ち仕事がだいぶ楽になりましたね。

モモ 私も頑張らないと。5時間立ちっぱなしとかあるし。やり出すとガーってやっちゃうし。屈んでいるような姿勢なので、気をつけないと体が疲れちゃう。

ムテ 体がすべてなんでね。

焼菓子モモ プロフィール
グルテンフリーのお菓子屋。2019年PTA(Park Trade Association)にて初出店。マルシェや通販、お菓子教室など、姿形を変えながら、米粉のお菓子を味方につけて活動している。2024年に菓子製造工房を構える。金山の本屋TOUTEN BOOKSTOREや春日井のカフェayimでクッキーやケーキを販売中。
Instagram

コーヒー ムテ プロフィール
愛知県に拠点を置くコーヒー豆屋。 2019年、全感覚祭にて初出店。 2020年より本格的に活動開始。 「ムテボックス」と呼称する、タバコ屋のような不思議なボックスを相棒に、様々なイベントにてコーヒーとドーナツを提供。 現在、名古屋市北区清水にて店舗オープンに向け奮闘中。
WEB SITE
Instagram

プレイリスト