丹下のナスの丹下孝則さん、トマトを栽培する石原農園の石原雅大さんと野菜の直売についてトーク。好きな音楽や趣味から、4Hクラブの話も。

【Cross Talk 02/丹下孝則・石原雅大】消散する、記憶に残る音楽と野菜と

by 紀平 真理子

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愛知県西部、稲沢市に佇むビニールハウスの直売所。ひっそりと「ひとりマルシェ」が開催されている。そこには、「丹下の茄子」の丹下孝則さんが作ったナスをはじめとする季節の多種多様な野菜が、お昼の一時間だけ並ぶ。

一方、愛西市では、「石原農園」の石原雅大さんがトマトを栽培し、週末になると、倉庫には多種多様なミニトマトで彩られ『Marche’ de la Tomao』(通称:でらトマト)が行われる。さらに、地域の3軒の農家仲間と『BARN SESSION』を組み、イベント等を企画・開催、人々が行き交う場を創っている。

Cross Talk 01では、好きな音楽や映画というレンズを通して、二人の野菜の直売所の風景を眺めた。Cross Talk 02では、消散していく、しかし記憶に残る音楽や野菜、そして人との関係性が織りなす記憶の断片を行き来させつつ、その先にある意味を探っていく。

雑談場所:ALASKA COFFEE(愛知県稲沢市)

ミーハーには思われたくない、でも好きだから買う。

―お二人は一見似ているようで全然違いますね。

丹下・石原 違う、違う。

―おもしろいですね。お二人とも共通点があるのに違う。

丹下 全然違う。同じだなって思うことほぼないよね

石原 ないっす。

―音楽は違いましたが、ファッションはどうですか。

丹下 たぶん違うよね。

石原 どうなんですか。僕あんまり気にしてないですね。好きなものをとりあえず身につけているだけ。

丹下 全員そうだと思うよ。

石原 コーディネートするじゃないっすか、アメカジならアメカジの勉強をして、それに沿ったものをつける。

丹下 ああ、音楽の聴き方と一緒だね。

―農業も同じスタイルですか。

石原 品種選びだけど、トマトはポップだけどポップだけになりたくないから、その中でいいと思うものはずっと出し続ける。お客さんがいいと思うかどうかはわかんないけれど、僕がつくり続けたいから、なんとかして知ってもらおうとする。気が強くないから伝える努力をするよりは、ずっとそこに置いておく。で、気づいた時に「でしょ」って感じかな。

アメカジの勉強をするといっても僕はめちゃくちゃ掘らない。あくまでも、例えばエアジョーダンだったら、赤と白と黒のやつがいいってみんな買うけれど、それは絶対に外す。ミーハーには思われたくない、でも好きだから買う。

丹下 センスもなんもないから、アウトソーシング。好きなお店を一個見つけて、ずっとそこで買うというやり方。アメリカか、イギリスか、もうわかってないぐらい。あとは体型に合っているか。

石原 「これが着たい」とか、「これを身につけたい」とかないんですか。

丹下 おざけん(註:小沢健二)が好きでダッフルコートを買いたかった。かわいすぎて、結局、一回も買うことはなかった。

石原 僕はジーパンが好きだもんで、ずっとそればっかり履いている。逆に言うと、それ以外のパンツは履かない。わかんない。

丹下 石原くんは自分に落とし込むまでにすごいフィルターをかけるんだね。

石原 でも一回、入るんですよ。衝動があるので一回入るんですけど、「あ、違うな」って。

丹下 一回聴こう、観ようとするまでのハードルが結構。

石原 入るときには教養として聞こうとします。ちゃんと聞いた上で、「あ、ダメだ」って判断して聞かないようにする。

収量性は少ないけどある程度パンチの効いた品種を選んでるつもり。”

―トマトにもフィルターを?

石原 一般的な品種は教養としては作るように、作らないといけないなって最近思ってきて。いわゆる収量性があってそこそこ美味しい品種。今作っている品種は弱くて作りづらいけど味がうまい。でも、一般的な品種と比較ができないと、こっち(今作っている品種)を作っている理由は薄くなるもんね。「だけど、僕はこっち選ぶ」っていうことを最近やらないといけないなって。

丹下 それは気持ちでの話なのか、収益性を含めた話なのか

石原 どっちなんだろう。収益性になるのかな。一般的に作られている品種は作ったことがないから、自分がちゃんと作れるのかがわからないんですよ。でも、一般的に作られている品種を作ってみて、「できるな」って感じるってことは、今作っている品種はやっぱり難しい。ただ下手くそなのか、その品種の影響なのかっていうのを知るために、一般的な品種を作ることをようやく去年くらいからできるようになってきた。メインの品種にはしないですけれど。あとは、僕がおいしいって思うかどうか。

丹下 おいしいって思って作るのは大事ですね。

石原 おいしいと思っていないやつをお客さんに売れないんですよ。「これどういう品種?」って聞かれたときに、「一番この中でまずいです」って普通に言っちゃうんですよ。それは僕の中で正直、収量性は少ないけどある程度パンチの効いた品種を選んでいるつもり。でも一般的なそこそこおいしく、そこそこ収量がとれる品種はパンチが効いてない場合が多いから、「いや、もうこの中で比べたらもう全然美味しくないっす」つって。当然売れない。気持ちが入ってないから。

丹下 直売の場でだよね。聞かれたときに勧めれないものをなんで作るの?

石原 トマトを作れるか作れないをまず判断しないといけないから、一般的な品種も作ってみるんです。

丹下 作ってみるのは自分が納得するためじゃん。売る時にさ、お客さんに「どれがおいしい?」って聞かれて、「これは美味しくないよ」って。おいしいものを売りたいのに、おいしくないものを。

石原 ただ、お客さんの中には「これがいい」って人がいるんですよ。細かい話をすると、果肉が柔らかくてゼリーの味が強い品種が僕は好きなんですよ。だけど、一般的に並んでいる品種はぷちっとした感じでゼリーのジュルが好まれる。そういう要望を満たすためにも、その中で許せる品種を作るんですよ。樹勢がそこそこ強くて、収量性があって、一般的には美味しいって言われてる品種を。

丹下 石原君の主観でってことだよね。「僕はこっちが好きです。こっちにはこういう特徴があります」って言えば誰も傷つかない。

石原 「どれがおいしいですか?」って聞かれたときに、やっぱり順番が決まってくるじゃないですか。

丹下 僕ね、答えられないんだよ。「どれがおいしいですか?」って聞かれたときに答えない。「僕はこれが好きだけれど」って。まず、どういうのが好きかを聞く。

石原 それは一緒っすよ。聞いた状態でだいたいこの人は果肉のことで判断しているなって思えば、「これですね」とか。

―丹下さんは曖昧なところを残して、お客さんに決めてもらう。石原さんはちゃんと説明して境界決めてあげるみたいな。

丹下 食感はここ、食味はここ。

石原 はいはいはい。

―その違いがおもしろいなと。

石原 なるほどね。ただ、好きでない品種は出さないようにはなりますね。売りたくないんですね。

丹下 トマトは大変だよね。ナスは数種類使って、食べ比べてようやくわかる。トマトは一個強烈なインパクトがあって、それが記憶として残るし、あれが食べたいという指名買いも。

―食べ比べないっていうのもありますね。ナスも種類ありますが、基本的には一つの品種に一回食べて、翌日に違うの食べる感じ。だから忘れるし、比較しないですね。トマトって特にミニトマトは同時に比べられる。

石原 僕はいろんなものを作った方が面白いと思うから作ってるのと、お客さんも選択肢が増える。食べ比べができると買わないパーセンテージが減る。「こっちはあんまり好みじゃないけれど、こっちは美味しいからこっち買う」っていう。同時にミニトマトを10品種くらい作るのって多分無理なんですよ。これを一人でやれば勝ちになるのもわかっていたから。半分戦略的に、半分自分の性格に合っている。

井上 そう聞くと丹下くんはいつまで経ってもベースラインなんだね。

丹下 そう!

石原 僕もメロディーに対してのアンチはあるんですよ。

なくなっていくものだからね、食べものは。

丹下 農家にマウントを取ってくる人もいるかもしれないけど、そうじゃない人は農家の性善説とは別で食べものを作っているということで敬意を払ってくれる。会いたい人が丁寧に会ってくれることがある。こっちも丁寧を接すると、その繋がりが長く続くっていうことがあるからありがたい。

石原 めちゃすごいiPhone作りましたより、めちゃうまいナス作りましたの方がインパクトありますよね。

丹下 どっちもあると思うけど。なくなっていくものだからね、食べものは。

石原 尊いですね。

丹下 尊いとは思わないけど、生物として糧になる。

石原 食べること自体が快楽にはなりうるじゃないですか。そういう意味での尊い。単純に素晴らしいとかでなくて。単純に快楽として受け取られる可能性が高い。

丹下 うん、食欲を満たすかどうか。

石原 おいしかったらなおさらね。

―いい感じで忘れるのもいいですよね。なんとなくおいしかった気がするとか。

石原 そのものがずっとここにあるんじゃなくて、一回なくなっちゃうからこそ。でもちょっと頑張れば手に入る。

丹下 季節もあるから「またあれが欲しい」と思っても、「もう終わっちゃったんですよー」って。また欲しくなってつながる。

その人しか乗れないサイズのハンカチを、その人の目の届くところで広げる。そうじゃないと独りよがりじゃん。誰にも気づいてもらえないって。

ー丹下さんのさまざまな人とのつながりにびっくりすることがあります。

丹下 僕、今だって思ったらぐいぐいいくよ。「食べてください」とか、「送ります」って感じで。食べてほしい人とつながる。

ー曽我部さん(註:曽我部恵一)やアフロさん(註:MOROHA)ともご交流が…。

ただ、僕が、曽我部さんやアフロくんとつながったのは、その二人がいい人というか、普通な人だから。「送ってよー」って。だからつながれたってのもある。そうじゃない人には、迷惑だろうからこっちからガツガツいかない。アフロくんは、コロナでミュージシャンが切羽詰まって気持ちが切れそうだからって、その友達へ僕の野菜をアフロくんから送ったりして。すげーなって。

石原 そこで、ぶっこめるのがすごい。

丹下 アフロくんがすごい。おもしろい。丁寧だしサービス精神旺盛。そういう人だから。僕は運がいい、そういう人に会えたから。

―丹下さんじゃなかったらそうならなかったかもしれませんね。

石原 それなりのアクションは必ずするもんで。

丹下 分析されてるー。

石原 ずっと後ろで見てますから。「いいな」って思っている人にはそれなりの行動はする。僕はできない。

―私も今日失敗しました。投げたら自分が予想してなかった人から大量にきてしまった。仕掛け間違いです。

丹下 それは場数踏めば。ダメージを減らすためには、ハンカチくらいにしておくといいよ。

―風呂敷でした。

丹下 ちょっとだけなら、広げて痛い思いしてもそれで済む。

石原 丹下さんはハンカチの置き方が上手です。僕は自分の目の前に置いちゃって、「来てくんないかな」。

丹下 ハンカチって言ったのは、来て欲しい人が明確にあるんだよ。で、その人しか乗れないサイズで、その人の目の届くところで広げる。そうじゃないと独りよがりじゃん。誰にも気づいてもらえないって。

石原くんと対局で全然知識がないんだけど、井上くんが映画が好きでロバート・アルトマンって監督の映画の話を聞いていたの。すごい長いし難しそうだけどなんか好き。主人公がたくさんいて、それぞれの時間軸とともに交差する群像映画の『ショート・カッツ』を最初に観た。主役がいて、その人の視点のみで進むんじゃない映画があるんだって知ったの。その後、たまたま東京に行ったときに、ちょうど、ロバート・アルトマンの古い映画がやっていて、それが『ナッシュビル』。3時間ちょい観て、実際一瞬寝たけどおもしろくて、ポスターも小さいのもらって。で、曽我部さんの下北沢のカフェCCCに行ったら、偶然、横に曽我部さんがいたの。で、「これ観てきたんですよ」って言ったら、「やってんだー」って。曽我部さんがそれをブログを書いたら、これまでDVD化されていなかったのが初DVD化。

石原 へーーー

丹下 めちゃひきつよくない?

―それハンカチじゃないですよね。

丹下 ハンカチですらない。なんにも広げてない。井上くんから聞いた話と、監督が好きな曽我部さん。点と点がつながった。

石原 僕、つながるカルチャーを共有してないんで。

未完成だから誰とでもいける。ガチっと組んだら、たぶんよそへ行こうと思わない。

―バンドの中でもしお二人が楽器をやるとしたらどんな楽器でどんなふうに弾きたいですか。

石原 ドラム。

丹下 やるとしたらラッパの低音。ブラスバンド部でチューバやっていて、低音ってメロディひかないから手数少ないからやれるし、みんなでやったらこの一音大事じゃんって後からわかって。ないとぺらぺらだよね。

石原 低音でメロディを作りたいと思わないんですか。

丹下 うーん、いや、職人的なのって、自分がやってないから。

石原 音楽でいうと、ベースなのにギターっぽく弾く、ドラムなのにちゃんと展開がある、そういう音楽が好き。ドラムは何かをぶっ壊したい部分、悶々としたものをぶっ壊す。破壊と構築が同時にあるものじゃないと僕だめで。そうなると、普通は激しいギターにいくんだけれど、ひねくれてるのかな、ドラムの方が。

―石原さんからみて丹下さんは楽器だと

石原 丹下さんはリズムギターかセカンドギタリスト。セカンドギタリストというと、なんか上下みたいだけど、メロディを弾くんじゃないけど、バンドの屋台骨を支える。ここで言うと、そのドラムでメロディをやりたいけど、それをちゃんと表現するっていう意味でセカンドギタリスト。

―丹下さんから見た石原さんは。

丹下 ドラム。一番後ろで、ビニール張りメンバーの後輩で一番後ろで控えめなポジションにいる。でも、音一番でかい。

石原 目立ちたい、でも一歩引いてる。確かにそうかも。めっちゃパフォーマンスドラマかもしれないです。

丹下 僕どの楽器を使ってもベースラインになっちゃう。

石原 あはははは。

―ビニール張りメンバー(註:愛知県西部の施設園芸農家の丹下さん、石原さん、井桁農園の井桁さん、近藤園芸の近藤さんがハウスのビニールの張り替えを一緒に行う)でバンド組むならみなさん、それぞれ何の担当でしょうか。

石原 ボーカルはいない。ポピュリズム的な視点だと井桁さん(註:愛知県愛西市 井桁農園)。目立つから。

丹下 センターは井桁くん。本人も喜びそう。僕とあつしくん(註:愛知県稲沢市 近藤園芸)はギターかベース。

石原 あつしさんもめっちゃ前に出てメロディを弾くギタリストではないですね。

丹下 じゃあ、僕ベースで、あつしくんがセカンドギターで、リードギターはなし。

石原 はははは。リードギターはゲストで久松さん(註:茨城県土浦市 久松農園)を呼べば。どのゲストがきても迎え入れられる体制はある気がする。

丹下 完成してない4人だよね。未完成だから誰とでもいける。がちっと組んじゃったらたぶんよそへ行こうと思わない。満腹にならない。なんか物足りないなとかさ。

石原 4人でいること自体、やってること自体。特に大きな不満もなく。

丹下 4人の時は具体的に仕事の事例や質問とかをバーンと聞き合って。その都度それを消していっておしまいみたいな。昔から知っている仲だし、利害関係でいうと、ビニール張りを毎年行き来しないといけないから衝突を起こす気が全くない。

交通事故みたいにたまたま観たらすげーみたいなのは…”(丹下)
ないです”(石原)

ーそのほかに好きなものは何かありますか。

石原 自分が好きなものがほかの人に響かないという人生がずっと続いてきたもんで。メタルなんて誰も聴かないじゃないですか。なんかモヤモヤ。だからそこのフィールドで同じように話せるようになるとめちゃくちゃうれしいんですよ。

井上 メタル好きの人は謙虚なんですよね。だいたいメタラーってやさしい人が多い。

石原 わかってもらえない経験をずっとしてるから。映画もあんま見ないし。音楽も教養としては聞いているけれど…。ドラえもんも一回も観ていないです。映画館は小学生のときに2、3回しか行ったことがない。『ET』はテレビで見た、教養として。『伊勢湾台風物語』は映画館で観ました。

丹下 なんで『伊勢湾台風物語』?

石原 単純に自然災害としての伊勢湾台風に興味があったから。台風に対してむっちゃ興味があったんですよ。他に観た映画は、大学の時とかは『アルマゲドン』を見に行ったけれど、「リヴ・タイラーがかわいいな」って思ってただけで。エアロスミス好きだから「エンジェルのあの人じゃん!」

丹下 石原くんは結構、意識的に受け入れようとするというかさ、交通事故みたいにたまたま観たらすげーみたいなのは…

石原 ないです。

丹下 昔、昼間にBS放送で映画『タクシードライバー』が放映されていて、偶然、観てたら「これすげー!かっこいいー」って。それが最初の…

石原 へえー

丹下 へえーいただきました!

石原 響かないんですよ。映画も中学校卒業する時に、「離れ離れになるから映画行こう」って、『キャスパー』と『ツイスター』を見たんですよ。別に覚えていないです。『ツイスター』はエンディングがヴァンヘイレンだったから覚えてるけれど。

丹下 理由が必要なんだね。

石原 エンディングが流れた瞬間に「おお」ってなって。それ以外は…。見ないといけないですね。

丹下 観ないといけないわけじゃない。

石原 見ないと共有できない。教養として見る感覚は。

丹下 教養じゃないものはなんで観るんだよ(笑)。だらだら、時間をつぶすために観ればいい。

石原 だらだらなら観ない。それができない。インフルエンザになって、部屋で隔離して仕事もできないし、一日中部屋にいて。その時、観たのが『ローマ帝国』と『トロイ』。答えがわかってるじゃないですか、史実や神話なんで。歴史や神話を頭で擦り合わせて、「どういうふうに表現するのかな」って見方をしちゃうんですよ。

丹下 僕のアンテナの張り方を石原くんがわかりやすいように言うと、ハロウィンのメンバーが好きなアニメとか…。

石原 まったく興味がない!いや、僕はもうバイキのギターのフレーズ。必ずステージに向かって右サイトにしか行かないんですよ。バイキだけを見ていたらいいです。

丹下 その好きな音ができるために、こういうバックボーンがあるからこの音になるんだよっていう文化的な…。

石原 メタル界のところは全部押さえてるけど、それ以外のところは全然興味ないです。

―ハロウィンのインタビューとか。

石原 インタビューは教養として読んでた。ファンとして見なきゃいけないって。『BURRN!』(註:ヘヴィメタル、ハードロック専門誌)はずっと買っていて、好きなバンドは全部読むけれど、ほかは流し見。

丹下 メタルを好きになってから、メタル以外に新しくすきなことやものは?

石原 スニーカーは高校に入ってすぐ。青春パンクは「こういう音楽もあるんだ」って大学のときにはまった。それまで日本語の曲をほとんど聴いてこなかったんだけれど、影響を受けた親友がゆずが好きだったのもあって、日本語の曲も聴いたかな。

丹下 NakamuraEmiさんは教養として聞いてる?

石原 ファンです。完全に。YAMABIKOで売れているのは知っていたから。そこで拓一郎さん(註:ZIP-FM ナビゲーターの小林拓一郎)が結構プッシュしてかけてたから、「拓一郎さんがプッシュするのはなんでだろうな」っていう。MASHもそうなんですよ。「こいつやべえ」って思って。

丹下 ZIP-FMのこばたくさんが勧めるのはわりとすっと入ってくるんだね。

石原 年齢が一緒でバックボーンを共有してるから。

丹下 その前提があるから寛容なんだよ。

石原 そうそう。今、地元で集まってるのも、同じ文化を共有している人なんですよ。バスケやってたとか、スニーカー好きだとか。世代も一緒で、重なり合うからつきあえるけれど、そのほかの人とは付き合えないんですよ。

「僕はこっち系です、どーも」って感じ。

―石原さんからカルチャーやコミュニティというフレーズをよく聞きますが、どんな意味ですか。

石原 僕らで言うと、スニーカーだったりとか、バスケだったり。ものになっちゃってる。それを概念的に共有できる人。「この人は、こんな感じだからこういう人間なんだな」って図り方を僕はしていて。最初に紀平さんと会うときも、「ハードな音楽が好きな子がいるよ」と聞いていて、じゃあこのバンドはこれぐらいの世代で、こういう人たちでこうだから…だから紀平さんはこんな感じの人間性かなっていう図り方をしちゃうんですよ。

―おお…

丹下 本当、僕、石原くんと対照的というか。共通認識のある人たちっていう前提の集まりを一回もなくて。そうしようとしたこともなくて。逆に共通項のない人たちから共通点を見つけるのがゲームみたいな。

―逆ですね。

石原 できないですね。そういうところに行く時は、こうやってネタ(石原さんも出店するポートランドのクリエイティブな風を名古屋へをテーマにしたカルチャー&ファーマーズマーケット『PORTLAND LIVING』のTシャツ、NIKEのエアジョーダン)を仕込みつつ行かないと無理っす。

丹下 武装するんだね。

石原 で、相手の装備を見て、「なるほどね」ってところでしか入れない。「僕はこっち系です、どーも」って感じ。

丹下 嗜みとしてね。

石原 紀平さんと靴の話をした気がする。あの時、確かVANSのオールドスクールだったんです。

―よく覚えてますね!

石原 そういう話から、「僕はどうも、こういうもんです」みたいな。

丹下 こういうもんですっていう紹介の仕方でこういうもんですってことだよね。

石原 好きなものしか身につけていない。世の中でいいと思われているから着る感覚がないもんで。 ある意味、処世術だったのかもしれないですね。

小学校の時も学校で評価されるのは運動ができるやつか、目立つのはヤンキーみたいな感じ。目立っていないし、頭が良くても別に評価されない。「じゃあ、どうしようかな」って。でも、好きなものはあるし、好きなものはずっと身につけている。気に入ってくれる人に対しては「一緒かも」って。

丹下 石原くん、自信あるんだかないんだかわからないね。

石原 まじでないですよ。ただ、共通のものがあるところでは、マウントは取りたがる。

丹下 めんどくせえ(笑)。

石原 僕、めちゃくちゃ自己顕示欲あるんですよ。

丹下 わかる!

石原 でも、それを意識的に抑えている部分もある。

丹下 出したい欲を自分で抑圧してるの?

石原 抑圧して、出せるところでしか出してない。

―メタルっぽい感じがしますね。

丹下 そうそうそう。自分の性にあっているのがこういう表現だったのでメタルがど真ん中。

石原 そうなんですかね…そうかも。メタルは単純に音楽性。でも、立ち位置としては似てるかもしれませんね。

―形式美みたいなのがありますよね。やはり。

丹下 ほんとメタル的な人にしか見えない。

石原 あははは。俺メタル的な人だったのか。

丹下 農家の農業青年の集まりで会長をやって、神輿に担がれることもやった。だけれど、聞いてると、常に自分の感情を抑えて、発散しきれていない。だったら、「全方位からスポット当たることを一回してみたらいいのに」って思うんだけれど、自分に足枷をつくるのかな。

石原 当たるとひくっす。むっちゃひくっす。

丹下 めんどくさいんだよ(笑)。劣等感っていうのはさ、満たされなかったことへの後悔。

石原 満たされなかったというよりも、できなかったという後悔。比べることじゃないけれど、彼はできたけど僕はできなかった。

丹下 「こんなはずじゃないって言うはずじゃない。」

石原 あはははは!

偉大なるマンネリズムは大事です。

丹下 石原くんが使う言葉で僕が言わない言葉に「後悔」があって。後悔っていう言葉を言い換えると僕は「仕方がない」で受け入れるのね。「ああ、できないダメだった」でガスが抜けていく感じ。

石原 僕は「同じ人間だからできるはずだ」って思う。だから今スタッフとかに対して、すぐにはできないかもしれないけれど、できるはずだって思ってる。

丹下 すごい目線が違う。求めているのにできないとストレスになるじゃん。うちは「できるはずだ」っていう性善説じゃなくて、できないのが普通で、できたらむちゃくちゃありがとう。僕は冷たいのかもしれない。

石原 努力すればなんとかなる。

丹下 なんとかなるんだよ。でも、後悔とくやしいがない。

石原 めっちゃくやしいです。絶対に勝てない相手にもライバル心を出しちゃう。

―ちなみに石原さんは丹下さんにライバル心があるんですか。

石原 ぜっんぜんない。

丹下 あはははははは。なめられてる?

石原 スタートが雲の上の存在だったから。当時、丹下さんが何言ってるのかわからなかった。「丹下さんと普通に会話できるようになったら、俺すげえ」とは思っていた。いろいろと経験した中で、だんだんと話ができるようになってきた感覚はある。

丹下 社会的な役職とかさ。僕にはそれがない。釣りバカ日誌のスーさんでいいじゃん。相手が誰であれ、失礼じゃないければ同じ目線でいけるって思っちゃう。

石原 一時期よく丹下さんから稲沢の喫茶店に呼び出されて、農業のことを話していたじゃないですか。その中で、わからないことがあると、寝れないんですよ。まじで寝れない。それで思考が習慣化したのはあります。それが一番あったのは、久松さんのところにいった時です。「うわ、こんなに考えてるんだ」は平凡ですけれど、「そこまで思考するんだ」って感覚。そういう人がいるから僕もやろうと。

丹下 最初の衝撃みたいなのあるじゃん。僕、高知県の視察で、畑さん(高知県高岡郡四万十町 畑俊八さん)のところへ行ったときしゃべれんかったもん。

石原 ありますよね。その視察から思考するようになったのと、そのタイミングからポットキャストを朝起きてから寝るまで聞く癖がついた。思考したい、考えたい!でも、自分の好きなこと以外やりたくないから、じゃあ歴史や哲学を聞こうかと。

丹下 教養として?

石原 そこはね、趣味。

丹下 ポットキャストが好きなんだね。

石原 情報を入れる手段がテキストだと入ってこないんです。雑誌だといいところだけパパって読んで、それで満足しちゃう。興味のあるフィールドで、耳からならずっと聞いていられるじゃないですか。一回じゃわからない。ずっと繰り返し耳で聞いて、頭にインストールする。一つのポットキャストを何十回と。

丹下 聞くことで情報を得ているわけ?

石原 そこから処理している。

丹下 それが趣味なわけか。

石原 最終的にわかっていることがわかっているように進むのがうれしい。どう表現するかは楽しみ。

―やっぱりメタルですね。

丹下 マンネリを求めてるんだよ。

石原 偉大なるマンネリズムは大事です。

丹下 水戸黄門に安心するんだね。

石原 そうそう、吉本新喜劇とか。

丹下 超つながる。

丹下孝則(丹下の茄子)プロフィール
愛知県稲沢市生まれ育ち。 20歳の頃、陶芸家のお爺さんに「野菜も作品になるんだよ」と言われ、それなら僕にも出来る!と大きな勘違いから就農を決意。 1999年に農業をスタート。ナスを中心とした新鮮野菜を栽培。 2004年からモテたくて飲食店取扱を開始。畑の外で多くの人に会い、人が好きと再認識する。 2010年からはパラソル1つ分のスペースで直売「ひとりマルシェ」を開始。「インディーズ農家」として、地元の飲食店や近くの消費者に直接届ける「この町の農家」
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石原雅大 (石原農園)プロフィール
愛知県生まれ。三重大学生物資源学部園芸学研究室卒。1年の研修を経て2003年に親元就農。研修先の影響でミニトマトの栽培に着手。全量市場出荷から産直割合を80%まで増やす。 2010年、全国農業青年クラブ連絡協議会会長を歴任。退任後からトマト直売に着手。2014年、農園販売『Marche’ de la Tomao』(通称:でらトマト)開始。 産直事業を核にしながら、農園での販売やマルシェ出店をライフワークと位置づけ、近隣の3軒の農家ともに野菜直売集団『BARN SESSION』の活動開始。現在は地元愛知西部の同世代事業者をメンバーに加え、こだわりと楽しいを現出させる活動として展開中。
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石原さんのプレイリスト