ビーフカレーにホウレンソウのおひたし、だしまき卵、ポテトサラダで750円。
健康診断。そこで働く人はみなとても丁寧だが、確認事項もセリフであるかのように棒読みである。AIの搭載を疑った。受診者の半分以上が外国人だったが、みな日本の規範に従い、ベルトコンベアの上にいるように私も含めて指示に従う。
終わった瞬間、昨夜から何も食べていないお腹が鳴った。
治安がいいとはいえないこの地域の裏路地を歩き回り、どこか「いい」ランチが食べられる場所を探した。ここは昼間だからまだいいが、夜は危険だ。そういえば昔、この地域にあるライブハウスに行く途中に『3,000円でどう?』と提案されたことを思い出した。忌まわしい過去で、人の価値を価格で提示するなんてと憤慨した記憶があるが、フリーランスの仕事も時間あたりで換算されているので本質的には同じようなものかもしれないなどと考えながら歩いた。
ふと、「カレー」と書いてある暖簾がかかった店が目に入り、吸い込まれるように入店した。外側から見るより案外広い店内は、やたら間延びした吉野家形式とも言うのだろうか、真ん中にお店の人が動くスペースがあり、その周辺をカウンターが囲む。おばさんがあっちへこっちへ走り回る。お客はおひとり様ばかり。吉野家と違うのは、対面の人とばっちり目が合うことだ。
私の対面には、スーツをきて美しい所作で、見られていると自認しながら食べる人もいれば、スマホを見ながらカレーをかき込む人もいる。歩くのもままないお年寄りの食べるスピード速いことも目に入る。
多様性といわれるこの時代にビーフカレーに副菜がついたメニューのみ。店内の客層は老若男女、職業などバラバラに見える。しかしみな一人でしかも全く同じものを目を合わせながら食べている。
ここはどうやらチケット制であるようで、チケットを持った人とおばさんは一言二言言葉をかわす。
『仕事もう終わり?』『今現場終わって口の中ジャリだらけ』
『どうすることにした?』『休んで練習かな』
ランチの時間が終わりに近づくと、多くの人が店を去る。そのときおばさんが『いってらっしゃい』と送り出す人と、『ありがとうございました』と送り出す人がいる。常連、非常連の区分かなと思ったがどうやらそうではなさそうだ。しばらく観察していると、「人に食べるところを見られていると自認しているふるまう人」には『ありがとうございました』、そうではない人には『いってらっしゃい』と声をかけている。おばさん自身もその線引きを意図的にしているわけではないと思うが、その区分にばっちり当てはまるのだ。
『ごちそうさまでした。おいしかったです』
私が店を出るときにおばさんは言った。
『ありがとうございました』